市橋達也の冤罪検証・いかにして英会話最大手NOVAは破綻への道を辿ったのか
2010/11/16(Tue) 01:12
いかにして英会話最大手NOVAは破綻への道を辿ったのか

第1回 いかにして最大手NOVAは破綻への道を辿ったのか (2007年11月16日)
http://diamond.jp/articles/-/2972
「なんとかして自力再建の道筋を開こうとしていました。しかし間に合わなかった。たった1週間遅かったんですね、なにもかも」──。会社更生法を申請し、事実上の倒産となった英会話学校最大手のNOVA。
その直前に、クーデターのかたちで社長の座を追われた猿橋望・元社長は、悔しそうに語った。
社長解任以来メディアの前から姿を消していた猿橋氏が、「1週間遅かった」と悔やむ倒産までの道のりを、本誌だけに明かした。
Q 10月25日深夜の取締役会で「欠席裁判」で社長の座を追われ、同時に新たに代表取締役に選任された渡辺勝一、吉里仁見、アンデルス・ルンドクヴィストの3取締役が、大阪地裁に会社更生法の適用を申請しました。一連のことを知ったのはいつですか。
猿橋 26日の金曜日になって初めて知りました。朝の5時半に電話でたたき起こされて「報道を見たか?」と。
Q “雲隠れ”などと言われていますが、クーデター後は何をしていたんですか。
猿橋 なんとか会社を建て直せるかもしれないという寸前だったんです。 金曜日(26日)は、なんでこんな事態になってしまったんだろうと考えていました。
私はもともと、毎朝5時6時まで仕事して、10時くらいまで寝ているような生活パターンだったんですが、この半年間は、いまは何時に寝ようが5時半には目が覚めるという状態だった。
とにかくこの半年間、立て直しのため秒刻みで動いていたのですが、土日は「もういいや」と寝ていました。その後は、弁護士と今後の対策について話し合っていました。
Q これからどうするつもりですか。
猿橋 月曜日までは、保全管理人からの発表がここまでひどいとは思わなかったんです。私が、会社を延命させて、私腹を肥やしたかのような悪イメージをつくろうとしている可能性がある。
保全管理人が就任して数日で、調査する時間もないうちに、ここまでいろんな話が矢継ぎ早に出るのはおかしい。何を調べて言っているんだと。ここまでやられたら反撃するしかありません。
私は自分の私財を13億~14億円突っ込んでいます。資金調達のために担保提供した株券だってそもそも私の私有財産です。従業員に給料を払うために全部突っこんだ。なんとしてもだれにも迷惑が掛からないように会社を再建するという大前提で動いていました。そこに一点の曇りもありません。逃げるなら6月に逃げています。
Q 生徒や外国人講師、社員に対して、メッセージはありますか。
猿橋 規模を極端に縮小し、会社を分割、レッスン料などの一般債権はほとんど吹っ飛ばすような方向で売却となるようですが、こんなことにならないように、なんとかして自力再建の道筋を開こうとしていました。しかし間に合わなかった。
たった1週間遅かったんですね、なにもかも。結果責任として多大な迷惑を皆さんにおかけしてしまい、本当に申し訳ないと思っています。
Q 私物化の象徴として、保全管理人から豪華な社長室が公開されました。
猿橋 あれは招待客にさまざまなネットワークのデモンストレーションをご覧いただき、職住一体型の空間を体感いただくためのVIP用モデルルームというかショールームです。社内ではビジネスセンターと呼んでいました。お茶の間留学のシステムを使って将来、どういうライフスタイルになるかというデモンストレーションを、年間100回近く行なっていました。そもそも私の社長室は本社にあります。
デスクに置いてあったネームプレートはお客様からのいただきもの。大体、自分の部屋の自分のデスクにネームプレート置きますか? あんなの置くのは役所くらいですよ。
Q 一方でギンガネットにお金を環流させていたという指摘があります。
猿橋 逆です。ギンガネットはNOVAにとって債権者なんですよ。ギンガネットからNOVAに6億円貸しています。
あと、ギンガネットがNOVAに、原価の何倍とかでテレビ会議システムの端末を売っていると保全管理人が言っているようですが、そこで利益を上げようなどという発想はまったくありません。そもそも米国の同等製品なら100万円以上します。それを生徒価格8万9000円で売っていました。あの端末を2万円や3万円で作れると思いますか。開発費を含めたらマージンはまったくないどころか、サポート費用で赤字です。
Q 異文化コミュニケーション財団についても、同様の指摘があります。
猿橋 これもまったくわかりません。異文化コミュニケーション財団には確かに理事長名で入ってますが、経営はまったく見てないので経理がどうなっているのかさっぱり知りません。だから、この財団についてはコメントを控えさせてください。
Q NOVA倒産前後に、プライベートカンパニーの株を売り抜けたという疑惑もあります。
猿橋 個人会社というのは、1つはNTBという旅行会社。この会社は10月末に航空券の代金決済で手形の不渡りを出すところでした。もう一つがギンガネット。こちらは給料が払えていなかった。
なぜなら、これまでギンガネット、有限会社NOVA企画の資金がタイトになれば、NTBから貸し付けるとか、個人会社のなかでのやり取りしていたんですが、NOVA本体の資金繰りが厳しくなって以降は、それができなくなったんです。プライベートカンパニーからは合計で約10億円をNOVAに投じていますから、どの会社も資金が不足していました。結局、ある会社にお願いして10月上旬に、申し訳ないが持って下さいと引き取ってもらいました。資金が回っていない会社ですから、売却額は“すずめの涙”。何百万円という金額ではありません。
Q NOVAが倒産に至った原因は何だと考えていますか。
猿橋 2006年の3月決算で赤字を出しました。じつは去年の3月にいたるまで300の新店舗を出しているんです。小学生の英語教育の義務教育化を見越して、小学校に講師を派遣するなどの体制を作るとしたら、最低でも2000店くらい必要だとわかった。
でも、2000店となると年間100店くらい出しても、10年以上かかる。ならば1年間でどれくらい出せるのか、一回やってみようと、アクセルをガンと踏んだんですね。ところが1年で300店というのは明らかにやりすぎでした。マネジメントが想像以上に希薄化してしまいました。
そこで、もう一度全部堅め直す。何もかも15%圧縮するという圧縮の方向に入りました。経営を筋肉質に変えることを、目標に掲げた。概ね上手くいっていて、売り上げは15%落ちますけど、利益面では今年の3月決算はかなり上方修正で行けるという気配を感じていた。これが今年の2月のことです。
ところがその矢先、経済産業省の立ち入り検査が2月14日に入ったんです。
第2回 迷走する資本提携先探し、その果ての行政処分 (2007年11月19日)
http://diamond.jp/articles/-/1265
拡大志向のきしみから2006年の3月決算で赤字を出したことから、NOVAは一転して経営を筋肉質に変えるべく、事業すべてを15%圧縮するという方向に舵を切った。その結果、2007年3月決算は利益面では上方修正となりそうな気配を感じていた矢先、経済産業省の立ち入り検査が入った。2月14日のことだ。ここからNOVAは混乱に陥っていく。
Q 2月14日の立ち入り検査の理由はなんだったんです。
猿橋 まったくわからない。理由ははっきりしませんが、社内の調査報告書によると、検査官が「講師の質の悪さ」「予約の取りにくさ」の証拠を集めろと言っていたようです。とはいえ検査は数時間で終わり、重い処分を受けるとは思っていませんでした。
ところが、その翌日の新聞一面に「NOVA立ち入り検査、業務停止か」といった記事が出ました。大阪の本部には新聞やテレビが来て大騒ぎになりました。報道で騒ぎが助長して、収束するのに2ヵ月くらいかかりましたね。
Q 事業への影響はどれくらいありましたか。
猿橋 そもそも3月というのは、年間の売り上げ3分の1を占めるんです。ところが、報道のせいで入学者数がまったく伸びず、2~5月のキャッシュフローのロスが例年に比べ約120億円にふくらみました。
Q 経営的にかなり大きいダメージですね。
猿橋 2007年3月決算は、再び赤字でした。2月の大騒ぎがあってから1ヵ月ちょっとですから、立て直せなかった。資本の増強が必要なので、知人の社長に優先株を30億円分持ってもらうこと話がついていました。
あるチェーン店を展開されている会社の社長で、シナジーも十分にある。その時点では30億円あれば十分立て直せると考えていたんです。そこに、4月に入って三井住友銀行の法人部長が来られて、「資本注入が必要だ」と言って、大和証券SMBCをFA(ファイナンシャルアドバイザー)に勧めてきました。大和証券SMBCが、ファンドや事業会社に声を掛けていくというわけです。私としては30億円の話があったので、FA契約はしますが、私が自分で勧めている話は阻害しないでくださいと言ったんです。
ところが、大和証券SMBCの動きが一発で例の社長の耳に入ったんです。
「何やお前、うちには30億円の優先株とか言うといて、ファンドには51%の普通株やて? めちゃくちゃやないか!」って電話ガチャ切りです。一発で話が飛んじゃった。私は大嘘つきみたいになった。
Q 大和証券SMBCからはどんな紹介があったんですか。
猿橋 大和証券SMBCが紹介してくれたのは2社だけです。1社は4月の上旬から中旬にかけてデューデリに入りました。もう1社、4月下旬に来ましたが、その後音沙汰がありませんでしたから実質1社ですね。
1ヵ月くらいしてファンドの方が来て、事業会社に話を投げていいかといって、彼らが挙げたのが丸井です。でも、私に了解をとる前に、とっくに先方には話をしてますけどね。彼らはいつもそうです。
とにかく5月30日だったか、東京・中野にある丸井の本社に表敬訪問に行きました。すると、その日か翌日、夜中にメールで資本業務提携の契約書が送られてきました。そして6月2日の土曜日、契約書のすり合わせをしたいというので八重洲にある大和SMBCの本社に呼ばれて、午前9時から夕方の6時頃まで、ひたすら契資本業務提携の契約書の読み合わせをしていたんです。
Q どんな契約だったのですか。
猿橋 NOVAの株をファンドと丸井で25.5%ずつ、合計51%持つ。それは構わないんですが、ファンドはいずれ売却するでしょう。そのときの売却先の第一優先交渉権を私に下さいと主張していたんです。契約書では、そのファンドが25.5%を売るときの優先交渉権を持っているのは丸井になったんです。ということは、ファンドがイグジットしたらわれわれは丸井の子会社になってしまう。それはいくらなんでもないだろう、というようなことを話していた。
その日は私はもともと2時ごろの新幹線で大阪に戻る予定にしていたんですが、6時を回ったので「そろそろ新幹線に乗らないと間に合わない」というと、「待ってくれ。いまからファンドと丸井が来る、今夜中に決めてほしい」と言うんです。「今夜中に決めないと、この話なくなっちゃうけどいいんですか?」と。
Q それで、どうしたのですか。
猿橋 会社の運命を決める話です。相談しなければならない連中もいます。自分でも考える時間が欲しい。だから、せめて日曜1日ほしいと言いました。しかし、いま決めないとこの話は飛ぶ、の一点張りです。「なんでそんな話になるの?」と聞いたら、週明けの火曜日に帝国ホテルで共同記者会見を予定しているというんです。「なんだそれは? いくらなんでもそんな勝手な話はないだろう」と、あまりにムカッとしたんで私、帰っちゃったんです。いくらなんでもレイプされるみたいな気分だったので。
まさか1日考える時間をもらっただけでホントに飛ぶとは思わなかったけど、実際この話は飛んだんです。今この話がどういうふうに伝わっているかというと、私が丸井との提携を蹴ったということになっている。
Q そう聞いています。
猿橋 そうでしょ。でも私は1日くれと言っただけ。ところが月曜になって、丸井のほうが降りたと聞かされた。だから私は向こうに蹴られたんだと思っています。
Q その結果、資金繰りの道が断たれた。
猿橋 6月末の資金繰りが厳しいことはわかってました。とにかく大和SMBCはいくらなんでもひどいので専属契約の解除を申し出て、知人の紹介で新生銀行をFAに指名したんですね。
そんなところに6月13日の「事業停止」の行政処分が出たんです。
第3回 時間との闘いだった、資金繰り (2007年11月20日)
http://diamond.jp/articles/-/7486
2月の立ち入り検査以降、NOVAの入学者は激減した。業績が落ち込む中、猿橋元社長は経営建て直しのためにファンドや自分の知り合いを通じて資本業務提携先を探し始めた。ファンドから紹介された丸井とは契約寸前まで行ったのだが、6月上旬に破談してしまう。途端に6月末の資金繰りが厳しくなった。そしてそれに追い打ちをかけるように、6月13日、経産省から「事業停止」という厳しい処分が下った。
Q 2月の立ち入り検査が、事業停止につながるということは予想していましたか。
猿橋 入学者の落ち込みは5月には落ち着きつつあったのですが、5月の上旬ごろから、経済産業省から変なことを言われ始めたんです。
たとえば、「時間と曜日を自由に選べる予約制と書いてあるが、自由に選べないときもあるだろう。これは誇大広告じゃないか」とか。
でも、いつでも自由に受けられるなら予約はいらない。予約制ってそういうことですよね。ほかにも、スタッフが入学申し込みの日付を書き忘れた契約書を出してきて、起算日がないのはクーリングオフ妨害だとか、妙なところに指摘が入ってきた。
「6ヵ月間の業務停止になったらおたくはどうなる?」と聞かれたこともあります。「そんなことされたら、ウチは飛んじゃいます」と答えると、「そんなことはないだろう」と当社の決算書を見ながら、「ここに250億円もあるじゃないか」と前受金のところを指して言うんです。流動負債に上げているレッスン料の前受金です。バランスシートが読める人にとっては常識のはずですが、あくまで会計上の金額であって、キャッシュがあるわけじゃありません。
そんな珍問答もあったので、「なんかまずいな」という雰囲気はありました。でも、せいぜい「指導」で、まさかいきなり「業務停止」が来るとは思っていなかった。6月13日に行政処分を受け、入学者の落ち込みはさらに落ちました。
Q 丸井との資本提携も破断し、資金繰りのメドも立たなくなっていた。
猿橋 これはえらいことだと、資産を片っ端から売却に入りました。生命保険、有価証券、不動産。私はゴルフはしませんがつきあいのなかで買ったゴルフ場の会員権もありました。売れる物はすべて売って、なんとか6月は超えました。
新たにFAにした新生銀行は大車輪で動いてくれました。新生銀行がファンドを当たり、私は事業会社のほうをいくつか当たりました。
その中にHISがありました。澤田会長とのあいだでは話はまとまっていて、7月中旬の月曜日、その日の役員会で会長がこの案件をかけることになっていた。
ところが、どこから漏れたのか、その日の朝日新聞の朝刊ですっぱ抜かれた。当然、HISの役員会は大紛糾。うちはジャスダックからばんばん電話がかかってきて、この話は私しか知らない話ですから、広報は「そんな事実はいっさいない」と全否定しちゃったんですね。
Q 一連の交渉は社長しか知らなかったのですか。
猿橋 こっちはね。向こうは話をもんでいるから1人じゃないとは思いますが。とにかく役員会が紛糾しちゃって、いまはちょっと難しいということになり、HISの話も消えました。
リークといえば唖然としたことがあって、HISとの話の前のことですが、経産省に状況報告に行った際、単独ではなく資本業務提携を考えていると伝えたんです。すると「どこと話を進めているのか」というから、私が「言えません」と答えると、「公務員には守秘義務があるんだから教えろ」ということになり、「では、某大手流通とだけ言っておきます」と言ったら、すぐにニュースになった。それから1週間くらいして経産省に行くと、「あ、こないだ取材が来たから、言っといたから」。本当に、たまりません。
Q 他にも提携の話はあったんですか。
猿橋 新聞に名前が出たところは事実です。全部、経産省が漏らしたんだと思いますが。
とにかく6月、7月は危機感の塊で、私は東京で資金繰りに奔走し、役員会どころじゃないという状況でした。とにかく増資をしなければなりません。相手が事業会社なのかファンドなのか、あるいは自己増資なのか、そんなのどうでもいい、資本注入しなければどうにもならない。6月は超えましたが、7月末にまた壁にぶつかる。そこをどう乗り越えるかものすごい危機感でした。

Q 給料の支払いに必要な額は1回当たりいくらですか。
猿橋 払い込み額ベースで、講師への給料が約10億、スタッフが約5億ですね。NOVAの給料日は、毎月15日が講師、27日がスタッフと毎月2回あるんですが、7月末は初めてスタッフの給料が4日間遅れてしまいました。7月27日の給料が8月1日になった。
なんとしても給料は払わなければならないと、いろんな調達をしてきたんです。私自身のキャッシュも使ったり、私個人の株券を担保に金融で調達したりとか、なんとか資金調達をしながら払ってきた。
Q 個人で突っこんだキャッシュはいくらくらいになりますか。
猿橋 直接出したのが3億3000万円。非連結の個人会社に対する貸し付けもだいぶあるのですが、そっちからNOVAに回しているのもあって、トータルすると13億~14億円くらいです。
Q 遅配になったとはいえ、7月末はなんとか資金繰りがついたというわけですね。
猿橋 7月31日に着金があったんです。報道もされた、例の“貸株”での資金調達です。800万株が行方不明というやつです。
Q あの行方不明になった貸株というのはどういう経緯だったのですか。
猿橋 巧妙にやられてしまったというか。完全に詐取だと思っています。スタッフに7月の給料を支払うために、なんとしても5億円を調達する必要がありました。その際、紹介者を介して知り合った金融コンサルティング会社から、今は株で調達するしかないだろうと言われ、2200万株を預けてしまった。株式会社ルーツという会社です。今から考えたらうかつでしたが、それほど切迫していたんです。ただ、これは預けただけです。貸株ではありません。
このうち1100万株を貸株契約して7月末に約5億円。正確には4億9500万円の資金調達をしました。500万円が手数料です。これで8月1日に給料を支払うことができました。
この貸株契約した1100万株で借り入れた4億9500万円は、8月6日に社債7億5000万円に振り替えました。1100万株も、8月10日に返ってきています。
ところが、残りの1100万株は預けただけなので、返すよう要請したのですが、今後の資金繰りで使うかもしれないのでしばらく預からせてくれと言って、300万株しか返してきませんでした。貸株ではなく、預けただけの800万株は今にいたっても返却されていません。
Q これはだれにも相談せずに自分の判断でやったことですか。
猿橋 私個人の株ですからね。


【最終回】これがクーデターの“真相”だ! (2007年11月21日)
http://diamond.jp/articles/-/4974
NOVAの給料日は講師が毎月15日、スタッフが27日である。その都度、講師に支払うには約10億円、スタッフには約5億円の現金が必要になる。猿橋氏はそれを捻出するため、資金繰りに奔走した。個人の持ち株を“詐取”される羽目にも遭った。最後にたどり着いたのは、外資系ファンド2社に対し、発行済み株式の3倍近い計2億株の新株が購入可能な新株予約権を7000万円で発行するというもの。これによって70億円の資金調達ができるはずだった。
Q 10月9日に、新株予約権の発行を発表しました。
猿橋 最後の手段だったんですよ。授権株数の上限の2億株まで出せば70億円調達できる。そういう数字でした。これも紹介の紹介でたどり着いてますが、これに関して、逮捕された(大物仕手筋の)西田(晴夫)氏との関係など、さまざまなうわさが出ていますが、会ったこともなければ、聞いたこともない人です。
それにしても、この70億円と、店舗整理による30~40億円で、ほぼ再建にメドが立っていたんです。
Q 店舗整理というのは?
猿橋 給料の支払いが最優先というなか、家賃が滞っている店舗があった。とにかく、統合店舗を洗い出すように指示を出したんです。ところが、店舗担当の役員はまったく動いてなかった。
これには愕然としたんだけど……。仕方がないので別働隊をつくるしかないと、外部の会社と弁護士チームと組んで、不動産管理を大車輪でやっていました。通常、店舗統合というのは、解約しても保証金が返還される前に現状復帰工事をしなければならないので、資金が逼迫しているときにはしんどいんです。
ところが、協力してくれた外部の会社というのは貸し会議室を全国展開している会社で、うちが退去したら改装工事せずに居抜きで貸し会議室として使うから、どんどん閉めてくれていいという。それで、小規模店舗から順に200店くらい閉める作業を進めました。
一方、絶対残さなきゃならない重要拠点や大規模拠点は、保証金の減額交渉をして回りました。家賃の50ヵ月とか80ヵ月という契約のところもあったんです。それを弁護士などと組んで10ヵ月か20ヵ月に契約し直していった。
Q なぜ担当役員はそれまで動いてなかったのでしょう。
猿橋 わかりません。家賃を払ってからじゃないと何の交渉もできないと思っていたのか、とにかく工夫するということをまったくできていなかった。
店舗統合で保証金が戻ってきたり、残る店舗も保証金で減額するから、家賃の滞納が消えるどころか、逆に来年以降の家賃がしばらくタダになるところも出てきました。これで40億円くらい浮いたはずなんです。家賃は年間100億円かかってたのが、これが全部うまくいくと50億円になるはずだった。それと共に保証金のバックが30~40億円。これに70億円の増資があれば完全に再建できたんです。その寸前に、クーデターのようなことが起こったわけです。
Q 資金繰りにメドがついたという状況は、他の役員たちに説明していたんですか。
猿橋 説明していましたよ。10月25日の夜にクーデター(社長解任)があったんですが、23日の火曜日の午後3~6時に役員会を開いています。その役員会で話をしました。
ところがそこで、「カネの問題ではない。会社更生を考えていないのか」とある役員が言いました。
もちろん、私も今年の8月上旬に会社更生法については調べています。そこで、ほぼ不可能という結論に達していました。なぜなら、ウチは規模があまりに大きいんです。債権者の数が多くて、日本全国にまたがっています。その規模の会社更生法は前例がなく、裁判所が受け入れないでしょう。そうなると法的整理は破産しかありませんから、とにかく自力再建をやろうということを念頭に置いていた。また、会社更生法で生徒の債権を飛ばしてしまったら、社員は怖くて店を開けることはできません。まず自力再建を優先し、無理ならスポンサーをつけての法的整理と考えていました。
だから火曜日の役員会では、更生法の適用は不可能と言いました。ところが、役員たちは「いや、できるんだ。裁判所も承知している」という。弁護士を使って大阪地裁に事前相談をやってたんですね。「大阪地裁が8000万円で受けるといっている」と言うんです。ほかにも「社長が責任を取るなら三井住友銀行が協力する」とか「経済産業省がスポンサー探しに協力してくれる」とも言ってました。何か裏取引があったのかは知りませんが、きな臭い感じでした。
Q 役員たちとは普段、あまり話をしていなかったのですか。
猿橋 しょっちゅう顔は合わせるんですけれども、6月以降、私は全力で走り続けていたから、会合する頻度というのはほとんどありませんでした。
Q 取締役会はやっていなかった?
猿橋 やってますよ、もちろん。決め事だけですから短い時間ですけど。例えば、増資を発表するときは役員会は当然やりますし。ただ、6月以降は不定期になってましたね。
Q クーデターの直前に、役員が辞表を提出しました。
猿橋 これも意味不明のことが起きたんです。10月24日に新株予約権の7000万円が着金しているんですが、その前日か前々日に役員辞任というニュースが流れたんです。
驚きました。こんな情報が、増資直前に表に出たら株価が下がるに決まってるじゃないですか。要するに、株価が下がるように下がるように、増資にことごとく妨害が入ってきたんです。
しかも、辞任届けを出した役員に私は解任されたんです。それが今、代表取締役です。こんなこと、今までの経済史のなかであったんでしょうか。めちゃくちゃです。本人たちが仕組んだのか、だれかが裏で糸を引いたのか、まったくわからない。
Q 役員の中にいっしょに資金繰りなどをやる人はいなかったのですか。
猿橋 残念ながら、いませんでした。悔やんだところで仕方がないけれど、最も私が悔やんでいるのはCFOがいなかったことです。
Q 財務担当者がいないのはどういう事情ですか。
猿橋 役員がもっと多かったらよかったんですがね。1人は店舗開発担当ですから、店舗整理をやってくれと指示を出していた。あとの2人はどっちも人事です。スタッフと外国人講師の人事ですから、それなりの役割行動をこなしてくれないといけない。私と共に動いている時間はなかった。増資だの資金調達なんてのは私しかできない仕事でした。
Q 残りの経営陣たちに対してコメントはありますか。
猿橋 何もありません。怒る気もしない。そのくらいせっぱ詰まってたんだろうなということです。彼らが、責任追及されることにものすごく恐怖感を持っていたのは事実です。人間ってこういう危機的状況に色々本質のところが出てきますからね。その気持ちはわかるんで、責める気はありません。
Q ワンマンと言われていますが、これについては?
猿橋 では伺いますけど、ワンマンじゃない創業社長がいたら教えて下さい。そもそも経営できますか。サラリーマン社長じゃないんですから。
[転載ここまで]
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